第29回「プッシュ戦略とプル戦略」

第28回では、フィリップ・コトラーがその著書で採り上げて、広く普及したSTPマーケティングについて学びました。市場細分化のS、標的顧客のT、顧客ポジショニングのPが、マーケティングの頭文字に付いています。

市場細分化(セグメンテーション)は、地理的基準(地域・人口・気候など)、人口統計的基準(性別・年齢・職業・所得・学歴など)、心理的基準(ライフスタイル・性格・価値観など)、行動的基準(使用頻度・ブランド・ロイヤルティなど)で細分化できます。そして、標的顧客を決める(ターゲティング)は単一市場顧客に特化するのか、複数市場顧客に異なるマーケティングを適用するのか、同一マーケティングを適用するのかを決定します。最後に、顧客の位置付け(ポジショニング)では、その顧客層が他の商品・サービスをどう評価し、自社をどこに位置づけてもらえるのかを想定します。

しかし、多くの市場を狙えば顧客イメージが曖昧になり、色んな人に売れる製品は誰の心にも訴求できないものとなります。鮮明な顧客イメージが想像できる市場に絞ることが成功の秘訣です。今回は、販売促進のプッシュ戦略とプル戦略を学びます。

1. 販売促進の類型

販売促進は、製品・サービスの存在を消費者に知ってもらい、興味を抱かせ、購入してもらう活動です。また、その主たる目的は、売り手と買い手のコミュニケーション活動です。そして、これは人的手法(プッシュ戦略)と非人的手法(プル戦略)に区分されます。

2. 人的手法(プッシュ戦略)

人的手法は、営業マンが自社や自社製品等の情報を消費者に提供し、納得して製品等を購入してもらうものです。典型的な事例は、自動車や注文住宅の営業マン、医家向けの医薬情報担当者、化粧品メーカーの美容部員の活動です。

メーカーから川上・川下へ製品等が流通し、消費者に到達することからプッシュ戦略と呼ばれています。人的手法は、製品等の効用が複雑で、その情報提供が不可欠な場合に非常に有効に機能します。また、ブランドと消費者の良い関係を築くには、大変効果的です。しかし、1顧客当たりの販売促進コストが高いという欠点があります。

したがって、大きな粗利益が獲得できる製品等の販売促進で選択できるのが、人的手法です。そして、販売促進を活発化させるには、販売店や営業マン向けのリベートや販売奨励金などのインセンティブ(刺激策)が不可欠となります。また、看板・のぼり・POP・景品などの資材提供、販売店への営業担当者の派遣など、直接的な販売支援が必要となります。

3. 非人的手法(プル戦略)

 人的手法(プッシュ戦略)の対極にあるのが、非人的手法(プル戦略)です。消費者にブランドを認知してもらい、消費者から流通・メーカーの流れで、指名買いを誘導する販売促進は非人的手法で、プル戦略と呼ばれています。

これは、消費者に対して、直接的に製品やサービスの良さや効用を伝える必要があります。そのため、テレビ・新聞・雑誌・ラジオ・インターネットなどの広告媒体の活用が中心となります。また、これらの広告媒体を組み合わせて広告効果を拡大することを検討します。この販売促進の広告では、消費者が購買意思決定に強い影響力があって、製品等の使用方法を既に熟知している場合に有効に機能する手法です。したがって、消費者が見たことがない、製品やサービスの効用を未だ知らない時点では、新聞・雑誌・インターネットなど情報量を多く伝える媒体を選択しなければなりません。

 しかしながら、実際のマーケティングではプッシュ戦略とプル戦略のいずれか一方だけを採用するのではなく、販売促進する製品ごとにその比重を変えながら、消費者に製品等の効用を訴求して行くことになります。次回は、マーケティングで最も重要な枠組みである4Pを学んで参ります。

郎    ふくしま こうたろう

著者:福嶋幸太郎 1959年大