第28回「STPマーケティング」

第27回では、日本発祥の経営理論であるナレッジマネジメントについて学びました。

これは、1995年に野中郁次郎と竹内弘高が『知識創造企業』で提唱したものです。人の頭にある知識(暗黙知)と、文字などで言語化された知識(形式知)を上手にマネジメントすれば、組織を効率的に運用でき、新たな価値を生み出せると説明しました。そして、他社に真似できない自社の強みであるノウハウを、言語化された知識に変換し、組織で共有して活用することが重要であるとし、暗黙知から形式知への変換過程をSECI(セキ)モデルと呼びました。今回から、マーケティング領域を学んで参ります。

1. STPマーケティング、4P、マーケティング・ミックスの関係性

マーケティングの神様と呼ばれるフィリップ・コトラー(1931年-)が、その著書で採り上げて広く普及したSTPマーケティングを学びましょう。これは、特定の顧客にどのような価値を提供するのかを、明確にするマーケティングの基礎戦略です。

STPマーケティングで大枠の基礎戦略を固めた上で、エドモンド・マッカーシー(1928-2015年)が提唱したマーケティングの4P、つまり製品(Product)・価格(Price)・流通(Place)・プロモーション(Promotion)の具体的活動を固めます。そして、ニール・ボーデン(1895-1980年)が提唱したマーケティング・ミックスによって、4Pをターゲットに対して合理的・整合的・効果的に組み合わせる活動を実施します。

STPマーケティングは、(1)市場細分化(セグメンテーション)のS、(2)標的顧客の決定(ターゲティング)のT、(3)顧客にどのように位置付けられるのか(ポジショニング)のPが、マーケティングの頭文字に付いています。まとめると、STPマーケティングでターゲットを明確に定め、4Pで最適な活動施策を選択し、それらを効果的に組み合わせてマーケティング・ミックスを実現します。

2. 市場細分化(セグメンテーション)

 セグメンテーションでは、顧客のニーズごとに市場をグループ化します。その際に4つの市場分割基準を使用します。それは、①地理的基準(地域・人口・気候など)、②人口統計的基準(性別・年齢・職業・所得・学歴など)、③心理的基準(ライフスタイル・性格・価値観など)、④行動的基準(使用頻度・ブランド・ロイヤルティなど)とされています。

市場をグループ化する作業はマーケット・セグメンテーションと呼ばれていて、特定の商品やサービスを特定の市場に集中的かつ効果的にアプローチするためです。例えば、富裕層でゴルフを趣味にするターゲット向けに高級車のレクサスを、セカンドカーでオープンカーの楽しさを求めるターゲット向けに小型スポーツ車のコペンを販売するというように、ターゲット市場を細分化します。

3. 標的顧客を決める(ターゲティング)

ターゲティングは、3つの手法で市場を選択します。①単一市場セグメントを選択し、それに特化する手法、②複数市場セグメントを選択し、それぞれに異なるマーケティングを展開する手法、③複数市場セグメントを選択し、同一マーケティングを展開する手法があります。

その際に、市場規模・成長性・波及効果・到達可能性・競合状態・反応測定可能性も考慮する必要があります。しかし、多くの市場セグメントを狙えば、顧客イメージが曖昧になり、色んな人に売れる商品を作ろうとすれば、誰の心にも訴求できない商品となる点に注意しなければなりません。鮮明な顧客イメージを浮かべられるターゲット市場に絞ることが、成功の秘訣となります。

4. 顧客の位置付け(ポジショニング)

セグメンテーションとターゲティングが特定されると、次はターゲットにどのような商品・サービスを提供するのかを決めます。例えば、主婦向けの地域限定の情報誌、少年向けのコミック誌、都会で働く若い女性向けのサービス、富裕層向けの普段使いの高級車、ドライブの楽しさを求めるセカンドカーなどが考えられます。そして、そのターゲットが他の商品・サービスをどう評価し、自社をどこに位置づけてもらえるのかを想定します。これがポジショニングです。

そして、S(セグメンテーション)→T(ターゲティング)→P(ポジショニング)を繰り返して検討を深め、より確実で成功可能性が高いマーケティング手法にブラッシュアップするようにします。次回は、プッシュ戦略とプル戦略について学びます。

 幸太郎    ふくしま こうたろう

著者:福嶋幸太郎 1959年大阪市生まれ。大阪ガス(株)経理業務部長、大阪ガスファイナンス(株)社長を経て、大阪経済大