第38回「ブランド管理」

 第37回は、「行動観察」について学びました。市場調査の新たな領域として注目される行動観察は、消費者が無意識のうちに取る行動を客観的に把握し、仮説を導き出す手法です。アンケート調査は、被験者の意識領域に限定されるため、質問の設定次第で回答が誘導される恐れがあります。しかし、人間の行動の大部分は、海面下の氷山のように無意識の領域が多く存在します。

行動観察の事例では、消費者が詰め替え用洗剤に比べて、その情報を読みやすいハードボトルを選んで、洗剤の情報を確認する発見がありました。また、幼児が歯ブラシを指先ではなく、掌でぎゅっと握るという発見がありました。これらは、消費者の無意識の領域をマーケティングに活用し、大きな販売実績を生みました。

アンケート調査の限界を理解し、消費者の無意識の行動を捉えることは極めて重要です。ただし、行動観察は文化人類学的な参与観察に近く、アンケート調査に比べて時間とコストを要する一次調査となるため、その特性を十分に考慮した調査方法の選択が求められます。

1. ブランドの3機能

 第38回はブランド管理を学びましょう。ブランドは、放牧者が自分の家畜を識別するため、家畜に自らの所有を示す自家製の焼き印を押したことに由来します。これがブランド(商標)の原型です。ブランドには3つの機能があります。

1つ目は、商品に関する情報を容易に獲得し、対応できる識別機能です。2つ目は、ブランドには品質保証機能があり、消費者の購入リスクを減らすことが可能です。3つ目は、消費者が特定ブランドの商品を継続購入する場合、感情的経験を持つことがあります。つまり、消費者の嗜好や帰属意識を示すことがあります。

仮に、消費者がブランド・ロイヤリティを持てば、高価格でも、そのブランド商品を買ってもらえる可能性があります。高級レディース・ブランドのエルメス、シャネル、サンローランなどは、このようなマーケティング戦略を採っていると考えられます。

2. アンゾフのマーケティング戦略

米国の経営学者イゴール・アンゾフ(1918-2002)は、自社製品を既存と新規に分けて、その製品を既存市場・新規市場のいずれに投入して、マーケティング活動に生かすのか、またどのような戦略特徴が存在するのかを説明しています。

既存製品を既存市場に投入するのは、市場浸透戦略です。図では、左上のマトリックスになります。市場浸透戦略は、過去の経験則が生きるので、ローリスクのマーケティング戦略となります。価格引き下げ・販売拠点増加・リアルやWEBでの販売などによって販売量を増加させ、既存市場でのシェア拡大を狙う戦略となります。

既存製品を新市場に投入するのは、市場開発戦略です。図では、左下のマトリックスになります。自社ブランドの既存市場への浸透が不十分である場合や、他ブランドとの熾烈な競争が生じている場合に選択されることがあります。典型的な事例は、国内で販売していた製品を海外市場へ展開することです。また、ベビー用スキンケア製品を若年女性の化粧品へ転用することが考えられます。従来はベビー用市場でしか販売されなかった製品が、若年女性の化粧品市場を開拓できる可能性があります。

既存市場に新製品を投入するのは、製品開発戦略です。図では、右上のマトリックスになります。新製品を既存市場で普及させて、売上高を拡大する場合に選択されることがあります。例えば、既存のベビー用スキンケア製品が保湿を主な機能としていた場合、肌に優しいソープやシャンプー、肌のバリア機能を高めるスキン・クリームは、ベビー用スキンケア市場での製品開発戦略の事例となります。

市場浸透戦略・市場開発戦略・製品開発戦略の3つは、過去の自社の製品ノウハウや市場経験が活用できるので、自社の経営資源を活用したマーケティング戦略です。言い換えれば、経済学の「範囲の経済」という理論で説明できます。つまり、3つは成功の可能性がやや高いと言えます。

しかし、新製品を新市場に投入する多角化戦略(右下のマトリックス)は、既存製品とのシナジー効果が弱く、過去の経験が生かされない市場でのマーケティング戦略となり、成功の不確実性が増し、リスクが高くなるハイリスク・ハイリターンの選択肢となります。次回は、サプライチェーン・マネジメントについて学びましょう。

福嶋 幸太郎    ふくしま こうたろう

著者:福嶋幸太郎 1959年大阪市生まれ。大阪ガス(株)経理業務部長、大阪ガスファイナンス(株)社長を経て、大阪経済大学教授(現任)、経済学博士(京都大学)、趣味は家庭菜園・山歩き・温泉巡り。