第35回は、イノベーター理論について学びました。米国社会学者ロジャーズは、新しいアイデアや商品の普及には、5つの潜在的採用者から構成されると説明しました。それは、新しいもの好きのイノベーター(2.5%)、オピニオン・リーダーのアーリーアダプター(13.5%)、アーリーマジョリティ(34%)、レイトマジョリティ(34%)、流行に関心が薄く保守的なラガード(16%)となります。
イノベーターとアーリーアダプターの合計16%を超えると、普及のS字カーブが急激に上昇しますが、普及率16%の壁であるキャズムを超えるのは難しいと言われています。イノベーションでは革新的な技術・アイデア・仕組みなどによって、新しい価値が作り出されます。しかし、これらは消費者や市場に受容されないと普及しません。つまり、個人が新しいと知覚するか否か、人間の認知や価値観、社会の文化や規範などが、イノベーションの普及に重要な影響を与えます。また、その普及にはマスメディアや口コミ情報が非常に有効となります。
1.マーケティングに不可欠な市場調査
今回は、マーケティングに不可欠な市場調査を学びます。マーケティングは、消費者に商品やサービスを購入してもらうための企業活動です。そのため、企業はターゲットとなる特定の消費者とその市場を客観的に把握することが重要です。暗闇で鉄砲を撃っても弾薬を消費するだけで、成果は期待できません。
時代とともに消費者の嗜好・行動は変化します。そこで、企業がターゲットとする消費者や市場を把握するため、客観的なデータを収集・分析し、マーケティングの意思決定に活かすことが最も効率の良い活動となります。
マーケティングの策定には、市場で生じている事実を把握し、自社の仮説が市場に受容されるか否かを確認します。一方で、実施した施策が効果的だったのか否かを検証することも重要です。仮説や検証のないマーケティングは重要な情報を見過ごし、コストや労力を無駄にします。また、不必要・不十分な情報から、誤ったマーケティング施策を導くこともあります。勘と経験は重要ですが、これに頼り切るのは危険です。
2. 市場調査の手順

地方都市の店舗立地では、幹線道路からの距離・間口・駐車場の大きさ・車の入りやすさ・看板の視認性など集客力の要素に仮説を立て、ロードサイド店舗を事前調査します。通常の市場調査は、調査目的の設定→仮説の設定→調査の設計と実施→仮説検証の手順で実施されます。
調査データは、他の目的のために収集された2次データと、特定目的のために収集された1次データがあります。コストや労力を省略するには、まずは2次データの利用が可能か否かを検討します。コストや労力を要する1次データの収集方法には、アンケート調査など統計的に数値を捉える定量調査と、特定消費者へのヒアリングやグループインタビューなどの定性調査とがあり、これらを組み合わせることがより効果的です。調査手法の選択では、正確さとコスト・時間は比例しますので、市場調査の設計と実施を十分検討した上で実行します。
著者は、かつてダイガスグループのマーケティング調査会社での業務経験があります。この際、得意先の外資系消費財メーカーは、相当なコストや労力をかけて、徹底した市場調査を実施していることを経験しました。
3. パッケージのリニューアル調査
売上が伸び悩んでいるスナック菓子のパッケージを、リニューアルするケースを考えてみましょう。調査目的の設定では、ターゲット層(10代〜20代)に響く新パッケージ・デザインを特定し、購入意欲を高める要因を明らかにすることとします。
現在のパッケージはデザインが古く、ターゲット層に魅力を感じてもらえていないとします。仮説の設定では、ターゲット層がSNSでシェアしやすい見た目の面白さ、限定感のあるパッケージを好むので、パッケージの色合いやフォントを変更し、より若々しく現代的な印象を与えられることとします。
調査の設計と実施では、定量調査と定性調査を実施します。定量調査ではWEB上で複数の新パッケージ・デザイン案を提示し、ターゲット層に好感度や購入意向を評価してもらいます。その際に、A/Bテストを実施します。Aは現在のもの、Bは変更を加えて比較したいもので、小さな変更で効果を検証できます。
定性調査では、ターゲット層のグループインタビューを行い、各デザイン案に対する直感的な感想、連想するイメージ、購買行動におけるパッケージの影響について議論してもらいます。参加者の意見は、事実とその参加者の感情や経験で構成されるので、事実だけを抽出することに留意する必要があります。
仮説の検証では、定量調査の結果、現行パッケージの好感度は他の案より20%程度低かったというデータが出たとします。そして、定性調査の結果、SNSの投稿を促すようなユニークなイラストやキャッチーな言葉が入ったデザイン案が最も高い評価を得たとします。これらをパッケージ・デザインに反映することによって、リニューアルの失敗リスクを抑制することができます。次回は、調査手法の一つである行動観察について学びます。
以上
福嶋 幸太郎 ふくしま こうたろう

著者:福嶋幸太郎 1959年大阪市生まれ。大阪ガス(株)経理業務部長、大阪ガスファイナンス(株)社長を経て、大阪経済大学教授(現任)、経済学博士(京都大学)、趣味は家庭菜園・山歩き・温泉巡り。

