第16回「典型的な組織構造」

職能制(機能別)組織と事業部制組織

第15回は、組織構造の6要素を学びました。管理者が組織構成員へ下す(1)「指揮命令系統」、管理者が指揮管理できる構成員数の(2)「管理の幅」、管理者権限を付与する(3)「権限設定」という3つの垂直的な組織構造要素がありました。

一方、企業活動の役割を分担する(4)「部門化設定」、同一部門内の職務を細分化する(5)「専門化」、どの程度厳格に規則化するのかを決める(6)「公式化」という3つの水平的な組織構造要素がありました。これらを組織構造の6要素と呼んで、組織を設計する際の検討項目とします。

今回は、最も典型的な職能制(機能別)組織と事業部制組織について学んで参りましょう。まずは、職能制組織と事業部制組織とは何か、またその長所・短所は何かを検討して参りましょう。

例えば、ゲーム機、テレビ、パソコンを製造販売する企業を想定しましょう。社長の下に、3つの製品群の研究開発業務を担当する部長、生産業務を担当する部長、販売業務を担当する部長を配置します。3人の部長の下に、ゲーム機、テレビ、パソコンを担当する製品別課長を配置します。これを職能制組織と呼びます。

 研究開発、生産、販売という3つの職能別に組織をまとめるので、同一職能内の意思疎通が容易となり、規模の経済を追究しやすく、専門性を高めやすいという長所が存在します。

しかし、職能区分を超えた協働や連携が難しくなり、職能別の対立が起こる原因となります。例えば、販売部門では、良い製品を作らないから販売できない。研究開発・生産部門では、良い製品を作ったのに販売力が弱いから販売できないという対立が起きることがあります。

 そこで導入されたのが事業部制組織です。これは、社長の下にゲーム機、テレビ、パソコンの製品別事業部長を配置し、その事業部長の下に研究開発、生産、販売という職能別組織を配置します。製品単位で組織をまとめるため、製品別採算管理がしやすく、プロダクト・ライフ・サイクルの成長期において事業環境に対応しやすく、事業部長の意思決定を素早く反映できる長所があります。

しかし、製品ライフサイクルが衰退期に向かう時に、事業部長は自ら担当する製品を撤退させる意思決定がなかなかできず、撤退が遅れて企業に大きな損失をもたらす短所があります。

そのため、事業部長の上位の取締役が、製品撤退の意思決定をすることや、投資収益率(ROI: Return on investment)を定めておき、これを下回る決算期が継続した場合に撤退するなど、基準を明確に設定する必要があります。実際に、スマホがカメラ市場を侵食し始めた時代に、カメラ製造業で主力事業であった一眼レフカメラやコンパクト・カメラから撤退する時期が遅れた事例も見受けられました。

脱炭素・カーボンニュートラルなど、地球温暖化対策の強化が求められる現在、日本の主力産業である自動車産業において、エンジン駆動の自動車から電気自動車へのパラダイムシフトへの対応が遅れているのではないかと言われています。

次回は、職能制組織と事業部制組織の変形とも言えるマトリックス組織、高い生産性とモラールを産み出す連結ピンについて、学んで参りましょう。

福嶋 幸太郎    ふくしま こうたろう

著者:福嶋幸太郎 1959年大阪市生まれ。大阪ガス(株)経理業務部長、大阪ガスファイナンス(株)社長を経て、大阪経済大学教授(現任)、経済学博士(京都大学)、趣味は家庭菜園・山歩き・温泉巡り。