第17回「マトリックス組織と連結ピン」

職能制(機能別)組織

 第16回は、最も典型的な組織構造について学びました。職能制(機能別)組織は、職能別に組織をまとめるので、同一職能内の意思疎通が容易となり、規模の経済を追究しやすく、専門性を高めやすい長所が存在します。

しかし、職能区分を超えた協働や連携が難しくなり、職能ごとの対立が起こる原因となります。

事業部制組織

この反省から生まれたのが、事業部制組織でした。これは、製品・サービス・営業地域単位で組織をまとめるため、単位別に採算管理がしやすく、成長期には事業環境に対応しやすく、事業部長の意思決定を素早く反映できる長所があります。

しかし、事業部長は自ら担当する製品・サービス・地域を撤退させる意思決定がなかなかできず、撤退が遅れて企業に大きな損失をもたらす短所があります。

マトリックス組織

今回はまずマトリックス組織を学んで参ります。

例えば、ゲーム機・テレビ・パソコンの3製品を製造し、研究開発・生産・販売機能を担当する3部署があったとします。

其々の製品マネジャーが3人、其々の機能マネジャーが3人いるとすれば、9つのグリッド(格子)ができます。この9つのグリッドに社員を配置します。これらの社員は、1人の製品マネジャーと1人の機能マネジャーの命令に従います。このことから、マトリックス組織はワンマン・ツーボス・システムと呼ばれます。

 市場への迅速な対応、規模の経済の追求、技術的専門性が生かせる長所があります。しかし、1人の部下には2つの命令系統が生じるため、責任と権限が曖昧になります。第15回で学んだ指揮命令系統一元化の原則に反するため、有効に機能しない場合が多いとされています。

 しかし、三菱重工業やスウェーデンのABBは、グローバルな事業展開をしています。そこで、製品別事業部と地域別事業部をマトリックスにして、各グリッドは利益責任を持つマトリックス事業部制を敷いています。つまり、製品別事業部は製品開発や生産を統合的に担当し、地域別事業部は顧客開拓・管理を担当します。

この場合も、マトリックス組織の短所であった指揮命令系統一元化の原則に反するため、CEOなどが指揮命令系統を調整することによって、この原則を機能させます。広範囲な事業展開をする場合には、マトリックス事業部制は検討の余地が十分あると考えられます。

連結ピン

米国の心理学者R.リッカート(1903-1981)は、下位組織の上司が、上位組織の一員となり、同一人物が上下組織に属する組織構造を連結ピンと呼んで、これが生産性の高い組織であると評価しています。また、連結ピンは、組織とリーダーシップの概念であるとも言われています。

人と人、人と組織、または組織と組織を有効的に結びつけ、コミュニケーションを円滑化することによって、組織の意思決定や業務推進を支える「潤滑油」の役割を果たしている組織構造です。

具体的には、課長は課員を統率し、部長はそれらの課長を統率します。そして、事業部長はそれらの部長を統率することになります。通常業務は、部下に権限委譲されます。そして、通常業務ではない案件は上司と部下が議論して、最終的には上司が意思決定をします。いわゆる集団参加型の組織です。

R.リッカートは、従業員の生産性やモラールを高めるには、このような集団参加型の組織構造が必要であると提唱しました。特に、管理者の仕事は仕事自体を扱うのではなく、人間を扱うことが必要で、組織における管理者のリーダーシップの重要性を強調しています。その結果、様々な組織ではこのような連結ピンが機能する重層的組織構造になっています。

次回は、組織で作られる組織文化について学びましょう。

福嶋 幸太郎    ふくしま こうたろう

著者:福嶋幸太郎 1959年大阪市生まれ。大阪ガス(株)経理業務部長、大阪ガスファイナンス(株)社長を経て、大阪経済大学教授(現任)、経済学博士(京都大学)、趣味は家庭菜園・山歩き・温泉巡り。