第23回では、目標管理制度(MBO)について学びました。ドラッカーは、目標管理と自己統制を提唱しました。これは、自ら目標を立てて自らを動機づける、目標を通じた従業員管理手法です。そして、目標設定には、①挑戦的で高すぎない、②具体的な目標、③部下の主体的目標設定、④上司から部下への適切なフィード・バックが必要であると主張します。
部下は業務目標を検討し上司との面談を経て、業務目標や計画を決定します。そして、計画的に業務を遂行し、年度末に部下が自己評価をします。また、上司評価には、客観性と公平性が求められます。今回は、賃金体系と報酬管理を学んで参ります。
賃金体系の概要
賃金体系とは、従業員に支払う給与の決定基準を示すものです。所定内労働時間に支払われる所定内賃金は、基本給と諸手当から構成されています。そして、これを超える労働に支払われる所定外賃金は、時間外手当などから構成され、労働法で最低限の支給基準が義務付けられています。そして、例月給与以外の賞与、退職金などが存在します。
賃金制度はその性格から3つに類型化されます。1つ目は、年齢や勤続年数に重点を置く年功主義的賃金です。2つ目は、職務遂行能力や人間的能力に重点を置く能力主義的賃金です。3つ目は、業績・成果に重点を置く成果主義的賃金です。しかしながら、実際に企業で運用されている賃金制度は、これらの3つを組み合わせながら、企業毎に重要視したい方針や理念により設計されています。
近年は、日本的経営のひとつである年功主義的賃金から、能力主義的賃金や成果主義的賃金へ移行が見られます。具体的には、非管理職の等級では、扶養家族手当などの家族手当、住宅費補助を目的とする住宅手当、国内外の勤務地に対応した勤務地手当などが支給されることがあります。しかし、管理職の等級では、これらの手当は支給されずに、等級に応じた年俸が支給される例があります。
また、第22回で学んだ昇進昇格のモデルが存在するため、管理職の等級においても同一等級の滞留年数に対応して、きめ細かく年俸を上昇させる制度を採用する企業もあります。
例月給与とそれ以外の給与の設計
例月給与は所定内賃金と所定外賃金で構成され、所定内賃金は基本給と各種手当で構成され、所定外賃金は特別な勤務に対して支給される手当で構成されています。
所定内賃金の基本給は、職能給の性格を反映させて定額制とすることが多いのが実情です。しかし、企業によっては職能給の割合を相対的に低く設定して、成果主義的給与の割合を加えて毎年度の基本給とする例もあります。
所定内賃金の各種手当には、家族手当、通勤手当、住宅手当など、生活給的要素を含んでいます。一方、各種手当には管理職に支給される役職手当、特別な勤務に対して支給される作業手当などが含まれることがあります。前者は仕事の成果や会社への貢献とは直接関係がない属人的手当です。そして、後者は職制上の責任や貢献に対して支給される仕事給的手当と解されています。そして、所定外賃金は、時間外手当、休日出勤手当、深夜手当などで構成され、労働法で最低限の基準が義務付けられています。
一方、賞与は、非管理職の等級では各種手当を除いた基本給に対して、労使交渉で決定した月数係数を乗じて支給されます。そして、管理職の等級では、年俸の月額相当額に同一の月数係数を乗じて支給されます。また、賞与は成果主義的要素を大きくし、業績給の性格を持たせる企業もあります。これらの賃金体系や設計は、企業の方針や経営理念に従って自由に設計されています。
報酬管理って何?
報酬管理は、労働対価の報酬をどのように設計し、運用するのかを統制管理することです。これは、使用者が労働者へ提供する金銭的、非金銭的、個別的、共通的報酬に区分される全ての報酬施策です。
金銭的か非金銭的か、個々の労働者に個別対応するのか、それとも労働者に共通対応するのかの2軸から、4つのマトリックスに区分されます。

このうち、賃金は金銭的かつ労働者個別対応で設計される制度で、報酬管理の重要な項目です。また、経営資源「ヒト」の能力を最大限に引き出すための不可欠な施策です。そして、労働者に共通で金銭的に報いるものとして、企業年金制度、長期勤続有給休暇、福利厚生制度などベネフィットが存在します。
一方、非金銭的かつ個別対応的な報酬として、キャリア開発など学習と能力開発への支援が存在します。そして、非金銭的かつ従業員共通の報酬として、労働意欲などを高める仕事環境の整備なども存在します。
報酬管理は、経営資源「ヒト」や組織の労働意欲や能力を引き上げるために、非常に重要な企業の組織戦略と言えます。ただし、企業利益と労働経費とのバランスを考慮する必要があるので、時代の変化に対応して従業員に効果的な報酬を設計し、統制管理する必要があります。
その検討に際して、第11回の給与や作業環境などの衛生要因を改善すれば従業員の不満を緩和できるが、満足度を高める動機づけにはならないというハーズバーグの「動機づけ衛生理論」を十分考慮して、報酬の優先順位を決める必要があります。
次回は、キャリア・デザインとマネジメント・スキルを学んで参ります。
福嶋 幸太郎 ふくしま こうたろう

著者:福嶋幸太郎 1959年大阪市生まれ。大阪ガス(株)経理業務部長、大阪ガスファイナンス(株)社長を経て、大阪経済大学教授(現任)、経済学博士(京都大学)、趣味は家庭菜園・山歩き・温泉巡り。