第40回は、「経営学の理論は机上の空論か?」について学びました。本連載では、経営学の理論とビジネス事例を解説してきました。経営学とは、ヒト・モノ・カネ・情報という限られた経営資源を最適に組み合わせて利潤を最大化する学問です。著者は、その中でもヒトを最重要資源と捉えています。企業の良し悪しはリーダーのマネジメント能力に依存しますが、これは学びと経験で鍛えられます。
著者は自身のビジネス経験から、経営学の理論を机上の空論と切り捨てず、経営課題を解決する引き出しとして、経営学を学ぶ重要性を述べました。経営学の研修参加者が、自身の失敗を理論で再確認するように、過去から蓄積された経営学理論を学ぶことは、現代の複雑なビジネス課題を解決する確かな助けとなります。
1. 15世紀のイタリア地中海貿易
4つの経営資源のうち、カネに係わる財務管理を学んで参りましょう。まずは、財務管理の歴史的変遷を辿ります。財務管理の基礎は会計学にあります。そして、会計学の基礎は、帳簿に記録する複式簿記に遡ります。
複式簿記を生み出したのは、15世紀のイタリア商人です。当時のイタリアでは、織物・パスタ・ワインなどを輸出し、香辛料・茶・陶器などを輸入する地中海貿易が盛んに行われていました。勇敢な船乗りは、リズカーレ(risicare)と呼ばれました。これが、リスク(risk)の語源です。また、机(banco)に帳簿を広げて取引を記録したことから、送金や両替業を営んだ商人はバンコと呼ばれ、後の銀行(bank)の語源となります。

当時、キリスト教は金利を取る行為を禁止していました。そこで、イタリア人は国を追われたユダヤ人に、この仕事を押し付けたのです。シェイクスピアの「ヴェニスの商人」に登場するシャイロックはユダヤ人の金貸しで、アントーニオは借金をしたイタリア商人です。
船が沈んだとの情報により裁判になり、裁判官は「契約書には返済できなければ肉を切り取っても良いと書かれているので、肉は切り取っても良いが、一滴の血も流してはならぬ」との裁きを下しました。その後、船はひょっこり帰港し、ハッピーエンドとなる物語です。
当時のヴェネツィアの造船航海技術は高いレベルで、ヴェネツィア商人は地中海貿易の主人公でした。近現代の金融界やIT業界では、ゴールドマン・サックスの創業者、ロスチャイルドやソロモン・ブラザーズの創業者、Google創業者のラリー・ペイジ、Facebook創業者のマーク・ザッカーバーグなど、米国ユダヤ系移民が活躍しています。
2. 負債と資本
イタリア商人は資金繰りのため、バンコ(銀行)は融資の回収・為替手形の発行や決済の取引記録のために、15世紀のイタリアで帳簿を付ける複式簿記が誕生しました。つまり、イタリアで金融と会計の基礎が作られたのです。

商売を始める際に、自己資金や株主から出資してもらった資金を元手に資本金(equity)を用意します。さらに、運転資金が不足する場合には、バンコから資金を借入れて負債(liability)とします。この2種類が、資金調達方法です。
商人にとって資本金は返済不要ですが、株主から高い配当を要求されます。負債は元本が保証されますが、元本返済と利息の支払いが必要です。
この調達した資金を使って、イタリア製品を買い付けて資産(assets)を保有し、地中海貿易に乗り出し、遠方で売却して、現地通貨で製品を買い付けます。そして、イタリアヘ戻り、買い付けた製品を現金化し、利益剰余金(earned surplus)を生み出します。これを原資に融資の返済や配当を支払ったのです。資産・負債・資本を数式で表すと、資産(assets)=負債(liability)+資本(equity+ earned surplus)となります。これが貸借対照表(Balance Sheet)です。
イタリアの繊維産業は、毛織物から麻・綿へと変化しました。繊維産業では同じ屋根の下で住む家族や仲間が一緒に働くことから、新たな商売上の組織を誕生させました。これが会社の源流であるCompanyです。Companyには、com(一緒に)+pany(パンを食べる)仲間という意味があります。
次回は、人類最大の発明のひとつとされる複式簿記がどのようにして普及したのか、読者の皆さんも知っておられる偉人を採り上げて、その歴史を辿ります。次回は、複式簿記について学びます。
福嶋 幸太郎 ふくしま こうたろう

著者:福嶋幸太郎 1959年大阪市生まれ。大阪ガス(株)経理業務部長、大阪ガスファイナンス(株)社長を経て、大阪経済大学教授(現任)、経済学博士(京都大学)、趣味は家庭菜園・山歩き・温泉巡り。
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