第42回「人類の偉大な発明、複式簿記」

 第41回は、「複式簿記の発祥はどこ?」について学びました。15世紀のイタリアでは地中海貿易が隆盛し、現代の金融や会計の基礎が築かれました。貿易に伴うリスクや、帳簿を広げる机を指すバンコ(銀行)といった言葉が、この時代に誕生しています。当時、キリスト教で禁じられていた貸金業はユダヤ人に委ねられ、彼らは後の金融・IT界で活躍する礎を築きました。

イタリア商人の資金繰りや銀行の取引記録の必要性から、15世紀に複式簿記が考案されました。資金調達方法である負債と資本、調達した資金で運用する資産を整理したのが貸借対照表(B/S)であり、それは資産=負債+資本で表されます。

また、繊維産業の発展に伴い、同じ屋根の下でパンを分け合う仲間(com+pany)という概念から、株式会社の源流であるcompanyが誕生しました。このように、中世イタリアの商慣習が現代経済の根幹を作っています。

1. 複式簿記の誕生

  ルネッサンス時代の偉大な芸術家・科学者のレオナルド・ダ・ヴィンチ(1452-1519)は、公証人の婚外子としてフィレンツェ西のヴィンチ村で生まれました。当時の公証人は、貴重な紙の入手が可能でした。レオナルドは公証人になるためフィレンツェに行ったのですが、公証人になれずにミラノに移動し、画家に弟子入りしました。そして、後に「モナ・リザ」、「最後の晩餐」など世界的に有名な絵画を制作しました。

レオナルドが生きた中世は、キリスト教が支配した神の時代で、教会の教えは絶対でした。そのため、これに従って生きる暗黒時代だったのです。市民の間には、抑圧的空気への反発として、人間らしく生きたいという自由への欲求が生じました。これが、再生という意味のフランス語であるルネサンスだったのです。

 「最後の晩餐」には遠近法が用いられ、これを助言したのが数学者のルカ・パチョーリ(1445-1517)でした。パチョーリは、1494年に数学書「スンマ」を発表し、ここに複式簿記の解説があり、レオナルドも「スンマ」を愛読しました。地中海貿易の初期には、紙を入手できる公証人が取引記録を付けていましたが、商売規模が拡大すると、公証人に料金を支払って依頼するのは合理的ではなくなりました。そこで、儲けの分配での紛争回避のために、商売人自らが複式簿記を使って、取引を記録するようになりました。これを解説したのが、「スンマ」です。その後、「スンマ」を教科書にして、欧州各地で簿記の学習教室が多く開催されました。ここでは、すべての取引を借方と貸方で記録し、会計仕訳が常に均衡する複式簿記の根本原則を解説しました。

 1873年に福澤諭吉は米国の簿記教科書を翻訳した「帳合之法」を出版し、日本で初めて複式簿記を紹介しました。会計仕訳で使用する借方・貸方は、福澤が考案した言葉です。そして、福澤は商売も学問の一つと考え、慶應義塾で簿記を教えました。イタリアで発明されて500年以上も経過した現在でも、著者は同様に大学で会計学の授業をしています。授業では、最初に複式簿記の歴史を話して、学生の皆さんに興味を持ってもらうようにしています。

江戸時代の大福帳は、単式簿記で家計簿のように現金の出入りを記録し、取引内容を摘要欄に記載します。そのため、現金の増減把握に留まります。一方、複式簿記は一つの取引を、資産・負債・資本・収益・費用の5つに区分した勘定科目によって表現し、それを把握します。そして、残高試算表、決算整理、総勘定元帳の締切り等を経て、貸借対照表と損益計算書を作成します。

2. 世界初の株式会社

1600年頃、ちょうど日本の関ヶ原の合戦があった頃、スペイン・ポルトガル・英国・オランダが東南アジア・インドで盛んに貿易をしていました。先行するスペイン・ポルトガルに対して、英国・オランダは大量の資金を集めて大砲を備えた強い船団を作ってライバルに対抗しました。1602年に、オランダはスペイン・ポルトガルよりも早く、提携する英国よりも巨大な東インド会社を設立し、東南アジアに拠点を設置しました。これが、世界初の株式会社です。そして、英国はインドを拠点としました。

ヴェネツィア時代には家族・親族が株主、フィレンツェ時代には株主が増加して仕事仲間となり、オランダ時代では顔の見えない株主が増加しました。

大きな資本金を集めて、大規模な商売をして経営効率を上げられるよう進歩したのです。経営者は、株主から経営を委託されています。したがって、経営者は、会社の経営成績(損益計算書)や財政状態(貸借対照表)を株主へ説明しなければいけません。これが、説明の意味を含む会計(Accounting)です。次回は、財務会計と管理会計の違いについて学びましょう。 

福嶋 幸太郎    ふくしま こうたろう

著者:福嶋幸太郎 1959年大阪市生まれ。大阪ガス(株)経理業務部長、大阪ガスファイナンス(株)社長を経て、大阪経済大学教授(現任)、経済学博士(京都大学)、趣味は家庭菜園・山歩き・温泉巡り。