第43回「財務会計と管理会計の違い」

 第41回「複式簿記の発祥はどこ?」、第42回「人類の偉大な発明、複式簿記」の2回連続で、複式簿記を採り上げました。数学者のルカ・パチョーリ(1445-1517)は、1494年に『スンマ』を発表し、世界で初めて複式簿記を解説しました。その後、欧州各地で『スンマ』を教科書にして、簿記の学習教室が多く開催されました。1600年頃、オランダは大量の資金を集めて軍事力の強い船団を作って、ライバル国に対抗しました。そして、1602年に巨大な東インド会社を設立しました。これが、世界初の株式会社です。

ヴェネツィア時代の株主は家族・親族、フィレンツェ時代の株主はこれらに加えて仕事仲間にまで拡大しました。オランダ時代の株主は、さらに顔の見えない株主にまで拡大しました。大きな資本金を集めて、大規模事業をすることで経営効率を上げたのです。経営者は、株主から経営を委託されているので、会社の経営成績や財政状態を説明しなければなりません。これが、説明の意味を含む会計(accounting)です。

1. P/L・B/S・C/F

会社の経営成績を示すのが損益計算書(P/L:Profit and Loss Statement)、財政状態を示すのが貸借対照表(B/S:Balance Sheet)です。そして、現金収支・残高を示すのがキャッシュフロー計算書(C/F:Cash Flow Statement)です。これらを財務3表と呼びます。日本の法人及び個人事業者は、損益計算書と貸借対照表を用いて1年間の法人税・所得税等を計算し、税務署へ納税額を申告して各種税金を納付する義務があります。このことを申告納税制度と呼びます。その際に、日本ではキャッシュフロー計算書は求められていません。
 企業会計には、債権者保護を重視する会社法会計、株式上場会社には投資家を保護する金融商品取引法会計が義務づけられています。そして、税額を計算するため法人には法人税法、個人事業者には所得税法に規定される税法会計が存在します。つまり、企業会計には異なる目的があり、3種類の企業会計が存在します。このことをトライアングル体制と呼んでいます。そして、これらは法律や会計基準に基づいて会計方針が規定されているので、財務会計や制度会計と呼ばれています。
 しかし、これは日本の財務会計制度です。世界中では様々な会計制度が存在し、その国の文化を反映しているといえます。したがって、会計制度が異なると企業の経営成績と財政状態を正確に比較することはできません。
 そこで、世界の会計制度を統一しようとする考えが起こります。世界経済のリーダーである米国では米国基準(USGAAP:US-Generally Accepted Accounting Principles)、欧州では国際財務報告基準(IFRS:International Financial Reporting Standards)が存在します。どちらも金融商品などを筆頭に、時価評価を重視する傾向が強いのが特徴です。
日本は取得価額を基礎とした会計ですが、2007年の東京合意以降IFRSと共通化する会計基準への変更を進めていて、このことをコンバージェンス(convergence:会計基準の収斂)と呼んでいます。ビジネスがグローバル化することによって、財務会計基準もそれぞれの国の文化を反映した会計から、国際的に広く使われている会計制度に徐々に変更されています。日本でIFRSを適用している企業は315社です(2026年6月末現在)。そして、時価総額では東証上場企業の約50%を占めています。

2. 管理会計の役割

管理会計は、財務会計の役割とは異なり、経営者・管理者等の意思決定や業績評価に役立つ情報を提供するものです。そして、法律や会計基準に基づく強制力はなく、時代の変化に合わせて、自由で経営を管理しやすいように進化しています。京セラの発展の原動力になったアメーバ経営は、国内約900社に採用されており、有名な管理会計の仕組みです。
 管理会計では企業で発生する全ての費用を、売上に比例して増加する変動費と、売上に比例して変動しない固定費に区分します。そして、売上高-変動費=限界(貢献)利益となります。例えば、正規社員の労務費は固定費となりますが、パート・アルバイトなど非正規の労務費は変動費となります(上図参照)。
 製造業で追加受注が発生したときに、管理会計を用いれば限界(貢献)利益がプラスかマイナスかによって、受注するか否かを判断できます。次回は変動費と固定費を使った、全部原価計算と直接原価計算について学びましょう。 

福嶋 幸太郎    ふくしま こうたろう

著者:福嶋幸太郎 1959年大阪市生まれ。大阪ガス(株)経理業務部長、大阪ガスファイナンス(株)社長を経て、大阪経済大学教授(現任)、経済学博士(京都大学)、趣味は家庭菜園・山歩き・温泉巡り。