第15回「組織構造の6要素」

集団凝集性

 第14回は、集団で行動することにより生じる力学であるグループ・ダイナミクスについて学びました。

グループ・ダイナミクスには、誤った判断を集団に同調させる集団圧力、内輪で親密かつ外部から隔絶した状態にいると安易に意思決定してしまう集団浅慮、良いケースと悪いケースがありますが、集団の影響の強さを示す集団凝集性の3つがあります。

組織構造の6要素について

今回は、組織構造の6要素を学んで参ります。リーダーには組織の構成員へ指揮命令するため、また組織の活動報告・連絡・相談を受けるために、組織の垂直的意思疎通が必要です。

垂直的な組織構造には、(1)「指揮命令系統」が存在します。指揮命令系統は、ピラミッド状の階層構造(hierarchy)になっていて、組織設計の要です。これには、2つの原則が存在します。

1つ目は、(a)指揮命令系統一元化の原則です。これは、他部署の人や階層を飛び越えた上位者から命令が下されると組織が混乱するため、命令・指示は直接の上位者一人から受けるべきであるという考え方です。

2つ目は、(b)権限・責任一致の原則です。これは、権限がないのに責任を持たされても、その責任を果たすことは難しいです。また、責任がない   のに、権限があると何をしても良いことになります。つまり、権限と責任が一致しないと機能しないという考え方です。

次に、組織の1人の管理者が効果的に指揮管理するには何人か妥当かという(2)「管理の幅」をどのように設定するのかを検討する必要があります。1人の管理者が効果的に指揮できる部下の数は、いったい何人なのでしょうか。

部下の数が少ないほど管理は容易ですが、管理者の数が増えるとトールな組織となり、コスト増となります。また、組織が縦に長いと縦のコミュニケーションが難しく、意思決定に時間がかかります。そこで、近年は管理の幅を広くし、フラットな組織を目指す傾向があります。

その上で、どのレベルの管理者にどの程度の権限(決裁金額等)を付与するのかという(3)「権限設定」を検討する必要があります。

 一方、水平的な組織構造、例えば製品開発・製造・営業など、企業活動の機能的役割を分担する(4)「部門化設定」、同一部門内の職務をどの程度細分化するのかを設定する(5)「専門化」、どの程度厳格に規則化して運用するのかを決定する(6)「公式化」があります。

組織構造の6要素の検討項目

垂直的な関係3つと水平的な関係3つを合わせて、これらを組織構造の6要素と呼んで、組織を設計する際の検討項目となります。注意点としては、垂直的な関係を重層化し過ぎると、意思疎通が遅くなってしまいます。一方、短絡化し過ぎると、多面的に経営課題を検討できない可能性があります。

大企業では、中小企業と比べて人的資源が豊富なので、重層化する危険性があります。一方、中小企業やベンチャー企業では、大企業と比べて人的資源が乏しいので、短絡化する傾向があります。

また、部門化を詳細に分割すれば、部門間の意思疎通が遅くなり、部門間対立の原因となります。一方、部門化を大きく分割し過ぎれば、部門長の意思決定が強大になることが想定されます。つまり、経営戦略に対応した組織設計を実施して運用しなければ、経営戦略が有効に機能しないことになります。

 アルフレッド・チャンドラー(1918-2007)は、20世紀初頭の米国大企業、化学製造のデュポン、自動車製造のGM、石油製造のスタンダード・オイル、小売業のシアーズ・ローバックなどの事例を取り上げて、「組織は戦略に従う」という理論を提唱しました。これは、市場環境が変化すれば、経営戦略をそれに対応して変更しなければならないとする考え方です。その結果、その経営戦略に対応した経営組織へ変更が必要です。経営組織が先に作られるのではないという点に、注目する必要があります。

著者が所属していた大阪ガスは、1980年~1990年代には法的規制の多い都市ガス事業から、ロイヤルホスト・かごの屋などのレストラン事業、LNGの冷熱を活用した冷凍食品事業、キッコリーなどのホームセンター事業、コスパなどのフィットネス事業、迎賓館などのウエディング事業、おゆばなどスーパー銭湯事業など、総合生活産業を標榜して多角化事業を展開していました。その後、エネルギー自由化が進展し、現在は各種エネルギーに対応した組織構造に大きく変化させています。

一方、イゴール・アンゾフ(1918-2002)は、チャンドラーとは真逆の「戦略は組織に従う」という命題を提唱しています。これは、既存ビジネスで安定した業績を挙げ続けている組織には保守的な組織文化が根付いていて、リスクのある事業戦略を立案しても組織は実際の行動に結び付かないという考えが前提にあります。言い換えると、組織能力に合った事業戦略を示さないと空回りするということを強調しています。

これは、第6回の経営戦略で学んだポーターのポジショニング・アプローチと、第7回で学んだバーニーのリソース・ベースト・ビューと同様、戦略が優先するのか、それとも組織能力が優先するのかという考えと似通った関係にあります。しかし、著者はチャンドラーの「組織は戦略に従う」という理論を優先しなければ、事業環境に対応した組織を作れないのではないかと考えています。

次回は、典型的な組織構造を学んで参りましょう。

福嶋 幸太郎    ふくしま こうたろう

著者:福嶋幸太郎 1959年大阪市生まれ。大阪ガス(株)経理業務部長、大阪ガスファイナンス(株)社長を経て、大阪経済大学教授(現任)、経済学博士(京都大学)、趣味は家庭菜園・山歩き・温泉巡り。