第10回「人間関係論」

人間関係論とは

第9回は、第8回のテイラーと共に経営管理論の礎を築いた、フランス人経営学者ファヨールの管理過程(management process)を学びました。

今日でもよく聞かれるPlan(計画)→Do(実行)→Check(評価)→Action(調整):PDCAというマネジメント・プロセスを、何度も繰り返し高速回転させることによって、予測困難な経営課題の解決に向けて、より効果的な実践的経営手法に繋がる経営理論ついて学びました。

 今回は科学的管理法と対比される、メイヨー(Mayo,G.E.:1880-1949)の人間関係論について学んで参りましょう。

人間関係が仕事に及ぼす影響は

メイヨーやレスリスバーガー(1898-1974)らは、米国ウエスタン・エレクトリック社のホーソン工場で、1924年から32年間に亘って作業条件と生産性の関係について実験を行いました。

ある実験では、6名の女子工員を選び、賃金・休憩時間・軽食サービス・部屋の温度湿度の作業条件を変えて、作業効率を測定する実験をしました。作業条件が改善されると、作業効率も改善しました。

ところが、作業条件を元に戻しても、作業効率が向上するという不思議な現象が生じました。女子工員の選別背景を分析したところ、被験者達は自分たちが選ばれて実験に携わっているという一種の誇り、責任感、友情、好意的雰囲気、事前事後の情報把握、マネジャーをはじめ皆が注目しており、この実験が自分たちの処遇を改善することを意識していました。

仕事のできる、できないは人間関係に左右される

このことを工場名に因んで、ホーソン効果と呼んでいます。彼女達の作業能率は、作業条件の変化という外的環境よりも、作業集団の人間関係に強い影響を受けていたことが判明しました。これらは、監督者と女子工員との面談に立ち会い、面談によって両者の相互理解が深まっていたことによって確認をしています。

 そして、従業員には事実に基づく不満と事実に基づかない不満があり、前者は個人的経歴や職場状況に、後者は感情的なものに左右されるとしました。

その上で、(1)人間の行動は感情と切り離せないこと、(2)人間の感情は偽装されること、(3)感情の表現は全体的な状況の中で理解すべきであると結論づけています。

仲がよいグループなどがやる気を左右する

また、組織には公式組織とは異なる非公式組織(informal organization)が存在し、これが労働者の感情や働き方に大きな影響を及ぼしていることが判明しました。具体的には、①仕事に精を出し過ぎるな、②仕事を怠けすぎるな、③上司に告げ口をするな、④偉そうにせず、お節介を焼くなという、感情に支配されていました。言い換えれば、作業仲間に迷惑をかけずにうまくやるという感情が働いていると指摘しています。

 メイヨーらは、テイラーの科学的管理法は、人間は孤立的・打算的・合理的である経済人仮説に基づいて、経済的動機による賃金などに影響される公式組織を対象としていると指摘しています。一方で、人間関係論は、人間は連帯的・献身的・感情的である社会人仮説に基づいて、社会的動機によるモラールに影響をされる非公式組織を対象としていると論じています。

メイヨーにより経営学も人間臭くなった

その上で、ホーソン工場の実験を基に、(ⅰ)人間は経済的成果より社会的成果を求め、(ⅱ)合理的理由よりは感情的理由に左右され、(ⅲ)公式組織よりも非公式組織の影響を受けやすいと主張しています。このメイヨーの考え方は、人間関係論として経営学の人間観を変えたとも言われています。

しかしながら、労働者に必要以上に配慮をすることが真の人的管理なのかという批判的意見が出されました。また、非公式組織の人間関係が良いことと、仕事へのモラールの高さが一致するとは限らないこと、さらにモラールの測定自体が難しく、真に生産性の向上に結び付いているのかを客観的に確認することが難しいとの批判も出されました。

そして、メイヨーの主張は砂糖のように甘い管理(sugar management)ではないかと批判する意見も出されるようになりました。

 次回は、メイヨーの人間関係論との関連性が高い、人間の勤労意欲に作用するハーズバーグの動機づけ衛生理論について、学んで参りたいと思います。

福嶋 幸太郎    ふくしま こうたろう

著者:福嶋幸太郎 1959年大阪市生まれ。大阪ガス(株)経理業務部長、大阪ガスファイナンス(株)社長を経て、大阪経済大学教授(現任)、経済学博士(京都大学)、趣味は家庭菜園・山歩き・温泉巡り。