第11回「動機づけ衛生理論」

第10回はメイヨーの人間関係論について学びました。メイヨーは、(1)人間は経済的成果より社会的成果を求め、(2)合理的理由よりは感情的理由に左右され、(3)公式組織よりも非公式組織の影響を受けやすいと主張しています。そして、メイヨーの人間関係論は、経営学の人間観を変えました。

動機づけ衛生理論

 今回は、米国の心理学者ハーズバーグ(Herzberg,F.:1923-2000)の動機づけ衛生理論(二要因理論,motivation-hygiene theory)を学びます。皆さんは、どのようなインセンティブがあれば仕事を自ら進んでやり遂げようとしますか?そして、仕事のどんな場面で、満足を感じますか?また、仕事のどんな場面で、不満を感じますか?  経営管理者は従業員に対して、同時に複数のインセンティブを与えることができます。しかし、従業員は何度も同じインセンティブを与えられると、そのインパクトは小さくなってしまいます。また、給与など金銭的インセンティブは、企業経営上限度があります

満足する時、不満を感じた時

ハーズバーグは、ピッツバーグ市の企業9社の技術者と会計担当者約200人を対象に、仕事において満足感があった時、不満感があった時を思い出してもらい、その時にどのような事象に遭遇したのかを面接調査しました。

そして、(A)職務満足感をもたらすものと、(B)職務不満足感をもたらすもの、二要因に分類整理しました。(A)職務満足感をもたらすものは、仕事の達成、その達成に対する承認、仕事そのもの、責任、昇進、成長でした。ハーズバーグは、これらを動機づけ要因(motivator factors)と名付けました。

一方、(B)職務不満足感をもたらすものは、会社の方針と管理、管理監督者の資質、給与や職務の保障、対人関係、作業条件となっていました。これらを衛生要因(hygiene factors)と名付けました。衛生要因は自分の職務自体ではなく、職務を遂行する際の労働環境や条件であり、職務不満足を予防する環境的要因であると言えます。

認められることが満足をもたらす

 その上で、(B)衛生要因(職務環境)をいくら改善しても、職務満足感をもたらすことはできないと主張します。具体的には、給与や物理的な作業環境を改善するだけでは、従業員の不満を取り除けても、不満を緩和させるだけで、職務の動機づけには繋がらないと主張します。

具体的には、従業員の職務動機づけを高めるには、従業員の不満足要因となる衛生要因を改善する。つまり、給与や物理的な作業環境を改善しながら、仕事の達成と承認という仕事自体に係る要因である動機づけ要因を改善しなければならないということになります。

経営者が従業員の職務満足感を高めるには、(A)の仕事の達成、その達成に対する承認、仕事そのもの、責任、昇進、成長が重要であり、優先順位が高いのです。

形式的なことは満足につながらない

私にも会社経営の経験がありますが、十分に(A)の動機づけ要因を実践できていたとは思えません。ついつい、(B)の衛生要因に引きずられることがあったような気がします。

見方を変えれば、(A)の動機づけ要因が整っているか否かの2パターン、(B)の衛生要因が整っているか否かの2パターンになります。その結果、会社の状況は4パターン(マトリックス)で評価できることになります。つまり、(A)と(B)が整っているのが最高、(A)と(B)ともに整っていないのが最低となります。(A)と(B)では、(A)の優先順位が高いと言えます。

経営者は、まずは(B)を整えながら、人事評価制度、会社目標の周知、表彰制度の整備、人材育成、従業員の価値観重視などの具体策を実行して、(A)を充実することが重要ではないでしょうか。

次回は、異なる人間観を扱うマグレガーのX理論・Y理論を学びます。

福嶋 幸太郎    ふくしま こうたろう

著者:福嶋幸太郎 1959年大阪市生まれ。大阪ガス(株)経理業務部長、大阪ガスファイナンス(株)社長を経て、大阪経済大学教授(現任)、経済学博士(京都大学)、趣味は家庭菜園・山歩き・温泉巡り。