第8回「科学的管理法」

テイラーの経営管理論

第7回は、バーニー(Barney)のリソース・ベースト・ビューを、ポーター(Porter)のボジショニング・アプローチと対比しながら、異なる経営戦略論を学びました。今回以降は、企業経営において、経営戦略と車の両輪と言われる経営管理論を採り上げて参ります。

まずは、経営管理論の基礎を切り開いた米国人テイラー(Taylor:1856-1915)の科学的管理法(scientific management)を学ぶことにしましょう。  

テイラーの科学的管理法とは

テイラーは、米国人エンジニアで経営学者です。科学的管理法の発案者で、現代においては「科学的管理法の父」と称されています。

テイラーが科学的管理法を確立する以前の労働現場では、作業の成果に応じて賃金が増える単純出来高払いが採用されていました。そして、管理者が設定する賃率の基準はいい加減でした。

つまり、労働者の生産量が増大すれば賃金が上がります。そのため、労働コストが増大すると、管理者は賃率を切り下げて、賃金を抑制していました。その結果、労働者は仕事をし過ぎると損になり、勤労意欲をなくし、組織的怠業が蔓延していました。

生産性を高めるための賃率とは

テイラーは、管理者が労働者に対する適切な知識を持たないために、適切な賃率水準を設定できていないことが問題であると考えたのです。

管理者と労働者が相互に合意した賃率を設定することによって、経営者はより合理的な労働コストで生産量を増加させ、労働者は自らの努力で高賃金を得て効率的に働くことができると考えたのです。

また、当時の労働者管理は管理者の資質に依存していました。そこで、テイラーは科学的管理法によって、労働者管理を汎用的に行える手法を編み出したのです。実際に、テイラーの科学的管理法を導入した工場では、生産性が高まり業績が向上しました。

 テイラーは労働者の怠業をなくすには、管理者が公正な賃率を設定し、客観的な基準で職務を正しく設定する必要があると考えたのです。いわゆる労働作業の標準化でした。これを実現するため、時間研究(time study)、動作研究(motion study)、指図票制度の3つを導入しました。

時間研究、動作研究、指図票制度

 時間研究では、熟練労働者の作業を観察し、一連の作業を分解し、ストップ・ウォッチで時間を測定し、作業の標準時間を決定しました。

動作研究では、無駄な動作を省いて道具を標準化し、最善の作業方法を見出しました。その上で、全ての作業をマニュアルに記載して共有化する、指図票制度を導入したのです。そして、労働者が与えられた課業(task)を達成すれば高い賃金を支払い、未達成なら低い賃金を支払う賃金制度を導入したのです。

フォードやマクドナルドで採用されている

 1903年に創業した米国自動車企業のフォードは、テイラーの科学的管理法を採用し、生産工程の専門化、標準化、単純化を図り、ベルト・コンベア生産方式を導入しました。このようにして、米国の大量生産システムの基礎が築かれて行ったのです。その後、日本は第二次世界大戦で米国との物資供給量に圧倒的に差をつけられ、これが敗戦に追い込まれる一因となりました。

 テイラーの科学的管理法を採用しているのは、マクドナルドです。店舗で均質な製品やサービスを提供できるよう、製造工場では製品仕様書に基づき生産がなされています。また、店舗では従業員にマニュアルを用いて教育訓練がなされています。まさに、科学的管理法の課業管理と指図票制度が実行されています。

 しかし、テイラーの科学的管理法は、労働を計画管理するホワイトカラーと、単純な肉体労働を実行するブルーカラーの2つの職能を分離したことによって、労働者の人間性を疎外し、階級闘争や労働争議の火種を作る負の側面も作り出すことになりました。

次回は、現代の経営管理の基礎となった、ファヨールが提唱した管理過程論を学んで参りましょう。

福嶋 幸太郎    ふくしま こうたろう
著者:福嶋幸太郎 1959年大阪市生まれ。大阪ガス(株)経理業務部長、大阪ガスファイナンス(株)社長を経て、大阪経済大学教授(現任)、経済学博士(京都大学)、趣味は家庭菜園・山歩き・温泉巡り。