第12回「X理論・Y理論」

仕事のやる気を出してもらうために

第11回は、ハーズバーグの動機づけ衛生理論を学びました。給与や作業環境など衛生要因を改善すれば、従業員の不満を緩和させることはできるが、満足感を高めるには至らない。

仕事の達成、承認、仕事自体、責任、昇進、成長を促す動機づけ要因こそが、従業員の満足感を高めるという経営理論でした。では、動機づけ衛生理論を突き詰めて考えれば、この理論の根底にある「元来人間はなぜ働くのか」という命題に行きつきます。

マクレガーの人間観とは

米国の心理学者・経営学者のマグレガー(McGregor,D.:1906-1964)は、第1回で学んだマズローの欲求段階説で取り上げた、低次元(不可欠的)欲求、つまり生理的欲求・安全欲求を多く持つ人間の行動モデルから、その人間観を定義しました。

これは、「人間は生まれながら、仕事が嫌い」「強制、命令されなければ働かない」「命令されるほうが良い」「責任は取りたくない」という人間観です。

マクレガーのX理論、Y理論とは

そして、この人間観に基づく管理法は、人間に対する不信感が根底にあるので、ソフトマネジメント(アメ)とハードマネジメント(ムチ)の組み合わせが効果的となると主張します。マグレガーは、これをX理論と名付けました。

 一方、低次元(不可欠的)欲求を満たされた人間は、より高次元の社会的欲求・尊厳欲求・自己実現の欲求を満たす行動モデルを採ろうとします。これは、「人間は生まれながらにして、仕事が好き」「命令されなくても、進んで仕事に取り組む」「自ら創意工夫をする」「自分の仕事の責任は、積極的に取る」という人間観です。

そして、この人間観に基づく管理法は、人間に対する信頼感が根底にあるので、目標に基づく管理が効果的であると主張します。つまり、自主的な目標設定、自己管理、自己評価、自己啓発などの管理法が選択されます。マグレガーは、これをY理論と名付けました。

マグレガーは、X理論に基づく命令・統制による階層原則に代えて、従業員の目標達成努力が企業の目標達成に繋がる状況を作り出すY理論に基づいた、統合原則による経営手法を主張しました。

動機付け理論のドラッガー

また、マネジメントの父と呼ばれるドラッカー(Drucker,P.:1909-2005)は、このY理論の管理法に基づいて、『現代の経営』(1954年)の中で、目標による管理と自己統制(MBO:Management by Objectives and self-control)を提唱しました。

これは、「自ら目標を立てることによって自らを動機づける」、「目標を通じて従業員を管理する」手法です。そして、目標を設定する際には、挑戦的だが高すぎない、具体的な数値目標、本人が主体的に目標設定する、上司から部下への適切なフィードバックが必要であることを強調します。

ドラッガーの理論は現代でも採用されている

ドラッカーは目標管理制度(MBO)を体系化し、現在多くの企業でこれが採用されています。私の出身企業のDaigasグループでも、2万人の従業員にこのMBOが長年採用されています。上司と部下は、年度末には当年度の目標達成状況と次年度の目標設定面談、年度半ばに当年度の目標進捗面談を実施し、従業員の業績評価の確定や今後の能力開発に活用されています。

しかしながら、私はY理論やMBOによる人的管理手法は正しく理想的すぎるのではないかと考えます。なぜなら、全ての業務に信頼感をベースに経営をするのはリスクが存在すると考えるからです。人間が本来持ち合わしているX理論の人間観も存在することを念頭に置いて経営する、ある意味でのバランスが重要なのではないかと考えています。

次回は、企業を取り巻く経営環境や従業員の資質の違いによって、リーダーシップのあり方がどのように変化するのかを学んで参りましょう。

福嶋 幸太郎    ふくしま こうたろう

著者:福嶋幸太郎 1959年大阪市生まれ。大阪ガス(株)経理業務部長、大阪ガスファイナンス(株)社長を経て、大阪経済大学教授(現任)、経済学博士(京都大学)、趣味は家庭菜園・山歩き・温泉巡り。