第3回「企業は誰の物なのか?」

第2回では、経営学と経済学の違いを学びました。経営学はヒト・モノ・カネ・情報などの経営資源をどのように調達し、配分し、組み合わせるのかを学ぶ学問領域です。したがって、第1回で採り上げた「マズローの欲求段階説」など心理学の理論は、マーケティング、社員の動機づけ、教育・研修・転職などに影響を与えています。

企業は誰のものなのか?


 では、経営学の研究対象となる企業は、いったい誰の物なのでしょうか?読者の皆さんは、すぐに答えを出されるのではないでしょうか。
大学生に同じ質問をすると、色んな答えが返ってきます。一番偉そうだから「社長の物」、物やサービスを買ってもらえないと困るから「お客さんの物」、社会の一員だから「社会の物」、銀行が融資しているから「銀行の物」、国や行政が企業の規制や指導をしたりするから「役所の物」、従業員が働かないと企業は困るから「従業員の物」など、多種多様です。
しかし、どれも間違っているとは言い切れません。なぜなら、企業の事業活動には、多種多様な関係者の協力が不可欠だからです。このような利害関係者を、ステークホルダー(Stakeholder)と呼びます。

企業の所有者は株主


 企業の所有者は株主です。そのため、企業は株主総会で重要事項を報告・審議します。また、投資家や金融機関に対して、財政状態・経営成績・事業活動を報告し、意見交換をするIR(Investor Relations)活動を行います。


さらに、企業で働く従業員やその労働組合に対して、企業情報を提供することも重要です。そして、企業活動を支えてくれる顧客・取引企業に対して、自社やマスコミの媒体などを通じて、同様の情報提供が必要です。この活動を、PR(Public Relations)と呼んでいます。

社会に対する責任も求められるように


企業の優先課題は利潤追求ですが、国・自治体・社会などに対して、事業活動に関する広範囲な責任を持つCSR(Corporate Social Responsibility:企業の社会的責任)活動があります。そして、社会規範である法令を遵守するコンプライアンス(Compliance)などが、強く求められるようになってきました。
江戸時代後期の農業経済学者である二宮尊徳(1787~1856)は、「道徳なき経済は犯罪であり、経済なき道徳は寝言である」という名言を残しています。社会規範に反する不祥事は、企業の存続を危うくします。また、投資家や金融機関は企業に対して、これら非財務情報を適切に開示することを求めることから、CSR報告書を発行する企業が増加しています。

日本の企業数の変化


 日本には、約380万社の企業が存在しています。しかし、若年人口の減少、団塊の世代の引退に伴う廃業が増加し、企業数は減少傾向にあります。実は、この企業数のうち、中小企業は99.7%を占めており、大企業は0.3%に過ぎません。また、株式上場企業は0.1%と千社に1社の割合となります。一方、従業員数(雇用)の割合では、中小企業は約70%、大企業は約30%となっています。
次回は、企業の所有と経営の分離について、学んでまいります。

福嶋幸太郎 ふくしま こうたろう

著者:福嶋幸太郎 1959年大阪市生まれ。大阪ガス(株)経理業務部長、大阪ガスファイナンス(株)社長を経て、大阪経済大学教授(現任)、経済学博士(京都大学)、趣味は家庭菜園・山歩き・温泉巡り。