第4回「企業の所有と経営の分離とは?」

 第3回では、企業は誰の物なのか?について学びました。企業(株式会社)の所有者は、株主です。株主が企業に出資し、経営者はこれを元手(資本)に事業運営をします。しかし、企業には顧客・従業員・金融機関・社会など、様々なステークホルダー(利害関係者)が存在することも学びました。

大企業と中小企業の違いは?

ところが、小規模企業の社長は、大株主で経営者一族が企業を所有している場合が多く存在します。日本の約380万社の企業のうち、中小企業は99.7%を占めています。中小企業は、0.1%の株式上場企業と仕組みが異なるのでしょうか?

企業が拡大するとどうなるか?

 1932年、バーリとミーンズは米国の200社を調査し、筆頭株主の持ち株比率を基準に、企業を5つの経営支配形態(私的所有・多数派支配・少数所有支配・法的支配・経営者支配)に分類しました。

企業規模が拡大すると、株式が分散して大株主が消滅し、株主支配力が低下して、企業の所有と経営が分離するという、経営者支配論を主張しました。一方、バーナムは企業規模が拡大すれば、経営が複雑化して専門能力が必要となり、経営者の支配力が強化され、企業の所有と経営が分離する経営者革命論を主張しました。

 しかし、企業規模が拡大しても、企業戦略によっては所有と経営が分離するとは限りません。実際に、大阪本社の竹中工務店・ヤンマー・サントリーは、株式を非上場としています。サントリーは所有と経営を一致させる企業戦略を採ったからこそ、赤字続きのビール事業を継続させ、ついに黒字化を実現できたと言われています。

所有と経営は分離されるか、一致されるか?

所有と経営を分離すれば、広範な資金調達・社会的信用・多様な事業展開を効率的に進めることが可能であり、株主総会・取締役・監査役の3つの機関が公正に機能することが期待されます。しかし、経営者は配当など株主の利益を重視した行動を取るため、短期的利潤を追求せざるを得なくなり、長期間継続性を追求する事業に取り組みにくい特徴があります。

 一方、所有と経営を一致させれば、他の株主に左右されない経営ができ、買収の危険がなく、株式上場に必要な各種報告書提出などの義務もありません。

その他、JTB・大創産業・ロッテ・エースコック・ミツカンなども、株式を非上場としています。朝日新聞社・小学館・講談社などは、報道や言論の自由の観点などから株式を非上場としている可能性がある一方、カドカワは多角化戦略による資金調達や買収の容易さの観点などから株式を上場しています。生命保険業界では、日本生命は株式非上場ですが、第一生命は株式を上場しています。

そして、ベンチャー企業が新興市場に株式を上場し、その後経営者やファンドが分散した株式を購入して、株式を非上場にするマネジメント・バイアウト(MBO)を実施し、所有と経営の分離から一致に戻す場合もあります。

次回は、経営学を二分する経営戦略と経営管理について、学んでまいりましょう。

福嶋幸太郎 ふくしま こうたろう

著者:福嶋幸太郎 1959年大阪市生まれ。大阪ガス(株)経理業務部長、大阪ガスファイナンス(株)社長を経て、大阪経済大学教授(現任)、経済学博士(京都大学)、趣味は家庭菜園・山歩き・温泉巡り。